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中田無双

北都留森林組合 参事

経営理念と能力評価システム導入が北都留森林組合の経営危機を救う

目次
1.森林組合とは
2.北都留森林組合の経営危機をきっかけに経営理念と能力評価制度を導入
3.「情報・技術・価値観」の3つの共有が大切
4.夢と希望と誇りを持って働くことのできる林業へ

2019.12.14  

1.森林組合とは
はじめに私の所属する森林組合という組織についてご説明します。
恐らく都会で暮らす皆様には、森林所有者でもない限りほとんどの方に馴染みがない組織ではないでしょうか。


日本の国土は約7割が森林で、その約7割が個人所有する私有林です。
森林組合は、森林組合法によって設立されており、この法律は、組合員の経済的社会的地位の向上を図ることと森林の保続培養、森林生産力の増進を図ることを通じて、国民経済の発展に貢献することを目的としています。


つまり、森林組合は、森林所有者自らの相互扶助の組織であるとともに、森林造成を通じて、木材供給のほか国土保全、水資源涵養、環境保全、文化・教育・レクリエーションの場の提供など、森林を通じた人間の生活環境の保全にとって、重要な役割を持つものとして位置づけられています。

日本の第一次産業(農林水産業)でいうと農業は農業協同組合(JA)、漁業(JF)は漁業協同組合と同じく森林所有者が互いに協同して林業の発展をめざす協同組合が森林組合(J Forest)です。森林組合には、高い林業技術を持ったスタッフが充実しており、組合員や地域の森林づくりや森林経営の要望に応えています。


森林組合は、組合員の出資により設立され、組合員より選出された役員が総会の決定に基づいて運営にあたっています。
全国で155万人の組合員により624組合(平成29年3月末現在)が設立されており、9,000人の役員と6,700人の職員が、1万6,000人の造林・伐採などを行う森林作業員とともに、事業活動に取り組んでいます。


2.北都留森林組合の経営危機

私の職場である北都留森林組合は、山梨県東部に位置し、東京都と神奈川県に隣接する都会から一番近い自然豊かな森に囲まれた街です。



1984年に丹波山村、小菅村、上野原町の3森林組合が合併した広域森林組合です。
管内森林面積は24,721haですが、その面積は日本の森林面積の1/1,000にあたる0.1%となります。
管内民有林の森林面積は15,719haで全体の約6割を占めています。その森林の約6割は人工林であり、そのうち約9割が戦後に植林された人工林ですが、これから成長した木をいかに山から搬出し有効利用していくことができるか勝負の時を迎えています。


私は、2002年4月にIターンとして書店という異業種から北都留森林組合へ入職しました。
当時は切捨間伐が事業の中心で、その他事業の柱のひとつであった公共事業は減少傾向にありました。
2010年に施行された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」などもあり、地元の自治体でも木造公共施設が次々と建設されるなど木材の需要は拡大を続けていましたが、その木材を山から運び出すための林道は約5m/ha程度と非常に少なく搬出間伐は全く進んでいませんでした。


切捨間伐を中心とした事業展開で何とか経営が回っていたために経営改革に挑戦するような動きはありませんでした。

こうした状況が大きく変化したのは、2011年のことでした。
組合の事務所が放火に遭いグラップル、大型トラックやフォークリフトといった高額な林業機械類が全て焼失してしまいました。
そこへ追い打ちをかけるように取引先の倒産によって大きな損失金が発生し組合経営は一気に赤字に転落するなど経営は危機的な状況を迎えることとなり、経営建て直しを図るために抜本的な経営改革を推進しなければならない状況へ追い詰められました。


この逆境を跳ね返すべく、最初に取り組んだはじめの一歩は

森林組合の経営理念

を創ることでした。

お恥ずかしながら当組合1984年の設立以来、経営理念というものはありませんでした。
経営理念とは、企業の活動方針の基礎となる基本的な考え方であり、経営哲学や信念、行動指針や目的などを明文化しその企業が果たすべき使命や基本姿勢などを社内外に表明するものです。


これは、経営者や従業員が変わっても長期にわたって受け継がれる普遍的で持続的なものです。
経営理念を考え創造していく作業は、自分たちが何のために働き・何のために存在するのかを明確にお客様へ伝え、働く職員の意識、ベクトルを合わせ働くモチベーションアップを高めるためにとても大切なことであり、その大事な原点を確認する作業となります。

自分たちは何のために存在し何を目指すのかを明確に示す経営理念というメッセージは、顧客や就職先を探す若者たちに必ず伝わります。

もし、林業界で経営理念を持たずに会社経営をしているところがあるのであれば、すぐに取り組むべき第一歩がこの経営理念づくりです。

2013年に北都留森林組合経営理念「森を中心とした持続可能な流域循環型社会の実現」という初めての経営理念の下、組織と収益構造の改革をスタートしました。

改革を進めるにあたり、職員にも新しい取り組みに積極的にチャレンジして欲しいと考えていましたが、曖昧な給与制度がその障壁となっていました。
当時、現場職員も含め全ての職員は月給制を採用していましたが、昇給や賞与の基準は定められていませんでした。

そのため職員はどのような実績を残せば給与が上がるのかわからず、要求される以上の成果を挙げようという高いモチベーションを持つことはできませんでした。

将来の経営を担う優秀な若手人材採用についても森林組合が求める人材像が明確でないまま採用を続けたために雇用のミスマッチを招き新人職員の定着率が低迷していました。
この曖昧な人事考課と採用方針を改めなければ経営改革は成功しないことは明らかでした。


しかし、その解決策は中々見つけることはできませんでした。

そんな時に林野庁の「能力評価システム等導入支援事業」という支援事業があることを知り2014年に申請しました。
同制度の最大の魅力は、制度の趣旨が職員のモチベーション向上と人材の定着にある点でした。


この制度を導入すれば組合が抱えていた2つの問題を同時に解決できると確信しました。

2014年夏にコンサルタントの横山繁樹氏が派遣され、その指導の下、能力評価システム導入に向けた取組みが始まりました。

まず、職員の理解を得るために現状の課題と評価制度の狙いを全職員会議で説明し、自分たちが自らの手で新しい人事制度の骨格を創っていくことを宣言しました。
現状に疑問を持たず、思考停止の状態で今まで通り何となく日々の仕事をしていく林業に「夢や希望や誇り」は持てるはずがありません。

縁ありこの時、この仲間と一緒にこの組合で働くこととなった訳であり、これから新たに組合に入り一緒に働くこととなる若者たちがこの「夢と希望と誇り」を持って働くことのできる「超一流の林業プロ集団」を皆で目指していこうと私の思いを伝えました。

次に全職員との個人面談を実施しました。
質問の項目は「人/組織」「給与/待遇」「やってみたいこと」等6つの要素について一人一人の考えを聞き出しました。


職員からは
「伐採の仕事だけではなく都会へのアプローチやビジネス戦略を考えたい」
とか
「地域にいる山づくり名人とコラボレーションしたイベントを企画したい」
等々それまで他人に打ち明けることのなかった職場や仕事への思いを聞くことができました。


職員からの意見に対しては、変えたい、変わりたいと考えている人はあなただけではないので、皆で組合を変えていこうというメッセージを伝えるために「新しいアイディアを事業化させるために関心のある職員で議論をしていきたい」といった回答者の意欲に応える内容の所見をそれぞれ書いて本人に返しました。

そして、職員会議の結果、私を含む7名の能力評価システム検討委員が選出され検討を重ねた結果、初めての「能力評価シート」が出来上がりました。

能力評価シートは、経営理念を実現するために能力評価制度を導入することを全職員に理解して欲しいと考え、最上段に経営理念「森を中心とした持続可能な流域循環型社会の実現」と3つの経営方針を明記しました。

評価項目は「規律性」「責任性」「積極性」「協調性」「安全衛生」という5つの要素に分類されており、それぞれに4~6項目、合計23の具体的な行動目標を掲げました。
各項目のうち特に「責任性」と「積極性」が重要だと考えています。

「責任性」の中には「与えられた仕事を燃えるような熱意と情熱を持って最後まで諦めずに粘り強くやり遂げることができた」があり、「積極性」の中には「新しいことに不慣れな業務に自らチャレンジ精神を持って挑戦することができた」などがあります。

仕事への取り組み方によって人間は3つのタイプに分かれるそうです。
1つ目は『自然性』で自ら情熱を持って仕事に取組み、周りの人にも影響を与えることができる人です。
2つ目は『可燃性』で隣に自然性の人がいれば一緒に燃えて仕事ができる人です。
最後の3つ目は『不燃性』で周囲の影響を受けても燃えることさえできない人です。


責任性と積極性を強く意識することで全職員が自然性人間になって欲しいと考えています。

この能力評価シートは、つまり当組合職員の目指すべき人物像なのです。
皆様から北都留森林組合の職員はどんな職員なのかと聞かれた時にこのシートに書かれたことが全て実行できる人間であると胸を張って説明できるために創りました。




今後の課題は、能力評価シートはこれで完成というものでは決してなく、常に改良改善を続けていくことが必要と考えています。
また今後は、能力評価委員も入れ替わっていくこととなりますが、その一人一人が組合幹部としての経営者意識を持ち組合運営の一翼を担えるような意識の変革を更に高めていく必要があります。


そして、この能力評価委員会が職員の能力評価だけに留まらず森林組合の中で日々発生する様々な経営課題と向き合い答えを見出すことを繰り返していくことで、職員の中から経営幹部を育成していく人材育成機関となっていけるようにしたいと考えています。

(参考文献)
林業における「働き方改革」の実現に向けて-林業経営者の手引き-
平成27年度能力評価システム導入事例集 -北都留森林組合-

3.「情報・技術・価値観」の3つの共有が大切

経営改善に向けて「情報・技術・価値観」の3つの共有がとても大切だと考えています。

当組合では、経営理念という価値観を役職員間で共有し、能力評価システムを導入し職員の努力成果に対してしっかりとした考課を行い(まだまだ道半ばですが)、当組合が求める人物像を明確化したことにより職員のモチベーションアップに繋がりました。

SWOT分析※1を行うことにより自分たちの現在地、立ち位置を再確認し「強み」「弱み」「機会」「脅威」を分析することから目指すべき方向性、座標軸を得られたことは経営改善に大きな影響を与えました。

職員会議では、全ての職員に対して毎年の事業報告と経営計画を時間の内容を掛けて説明し、様々な「情報」を共有することに努めています。
そのことにより各現場ごとの収支に対しての意識が格段に向上され、低コスト化、生産性向上、無理・無駄・ムラを減らす弛まない創意工夫と努力が職員一人一人に芽生えました。
その結果、作業現場では常に「技術」向上を目指す風土が醸成されてきています。


その結果、経営は大きく改善に向かいました。もちろん、2012年から山梨県が新たに導入した森林環境税のお蔭で収入増に繋がったことは事実ですが、この職員のモチベーションアップ無くして経営改善は実現できませんでした。

※1 SWOT分析とは、目標を達成するために意思決定を必要としている組織や個人のプロジェクトヤベンチャービジネスなどにおいて、外部環境や内部環境を
強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats)
の4つのカテゴリーで要因分析し、事業環境変化に対応した経営資源の最適活用を図る経営戦略策定方法の一つである -ウィキペディアより-


4.夢と希望と誇りを持って働くことのできる林業へ
林業は、持続可能な循環型産業であり、山村の中心的な産業です。そして、水源涵養、公益的・社会的機能を発揮できる元気な森林を未来の子供たちへ引き継いでいくために無くてはならない大切な職業です。

私は、その自然を相手に最先端技術を駆使しながら創意工夫を持って挑む「森と共に生きる」素晴らしく魅力ある林業という仕事を若者たちの憧れの職業のひとつにしたいと思い日々仕事をしています。

もちろん今の日本林業には、収入と安全性の更なる向上や労働環境改善と働き方改革推進など様々な課題を抱えており、今のままでは改善させていくことは簡単なことではないかもしれません。

しかし、今回この林業WEBソマノベースが立ち上がったことにより、林業界と他業界がつながる機会を得たこと、林業という職業がより多くの若者たちの目に触れる機会を得たことは大変喜ばしいことであり、これまで林業に縁の無かった方々に一人でも多く森や林業のことに関心を持って頂き、理解してもらい、多くの仲間と繋がって頂ければと思います。

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