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大谷 栄徳

樹木医

林業で育てる木は風の影響を受けやすい傾向にある

2019.12.14  

1 完満材とうらごけ材
林業は木材生産を目的とした産業です。
その木材を生産する上で、求める木の形状は「完満材(かんまん)」です。
「完満材」とは、末口(先端側の木の断面)と元口(根元側の木の断面)の直径差がほとんどない木材、または、根元側の幹と先端側の幹の太さの差が小さい木のことを言います。
その反対で、末口と元口の直径差が大きい木材、または、根元側の幹と先端側の幹の太さの差が大きい木を「うらごけ材」と言います。



柱を生産したい場合、イラストの赤い点線で囲った部分が柱材となり、それ以外は端材となります。
柱と板を生産したい場合、イラストの赤い点線で囲った部分が柱材、青い点線で囲った部分が板材となり、それ以外は端材となります。



こうしてみると、うらごけ材より完満材の方が歩留まりが良いので、木材を生産したい場合は、完満材の生産を目指した方がいいなと、分かっていただけるかと思います。

どうすれば、完満材を生産できるのか。
答えはシンプルで、植栽密度を高くすれば完満材に、植栽密度を低くすればうらごけ材になります。
ちなみに、針葉樹と広葉樹、人工林と天然林に関わらず、一定の空間に生えている木の本数が多ければ、完満材に、本数が少なければうらごけ材になります。
これは、樹木の生長とも関連していますが、今回の趣旨から外れてしまうため、そのお話は別の機会にさせてくださいm(_ _)m。

2 完満材が受ける風の影響とうらごけ材が受ける風の影響、その違い
木材生産という観点で言うと、完満材はうらごけ材より優れている、と考えられます。
しかし、うらごけ材は完満材より風の影響を受けにくいというメリットがあります。
釣り竿を例にすると、釣り竿の形状は手元から先端に向かうほど細くなっています。
先端が細くなることで、釣り竿を大きく振りかぶったときに起こる衝撃の力を、先端がしなやかに曲がり、結果、衝撃の力を分散し、手元への負担がなくなります。
仮に、先までほぼ同じ太さの釣り竿があったとしたら、それを振り下ろすと、手首への負担はどうなるのか、と考えていただくと、想像できるかなと思います。

さて、木の形状が、先端が細く、根元が太い「うらごけ材」の場合、風が吹いた時、先端がしなやかに揺れるため、その衝撃が吸収され、木の根元に対する曲げの力の影響はほとんど及びません。
一方、末口の直径と元口の直径の差が少ない「完満材」の場合、風が吹いた時、先端がしなやかに揺れないため、衝撃を吸収する力が弱く、”てこ”の原理が働き、根元に曲げの力が及び、その結果、幹が折れてしまったり、根から倒れてしまうことがあります。

一般的に、「幹や枝の形状が先端から根元にいくほど、太くなる円錐形になると曲げの力が均等化される」と言われています。



上図に示す矢印は、長い矢印ほど曲げの影響を受けているというイメージです。
なので、木(幹・枝)の形状は、完満材よりもうらごけ材の「円錐形」の方が、曲げの力を均等化することができるというのが、うらごけ材のメリットです。

3 完満材とうらごけ材の樹冠の違いによる風の影響差
さて、木材生産を目的とする林業の主な森林は、スギやヒノキの人工林です。
木が密集している人工林では、下枝※に十分な光があたらず、結果、枯れるため、自ずと樹冠※の位置が高くなります。(生きた下枝がびっしり生えているスギ・ヒノキ人工林って、ほとんどないと思います。)
【補足】



※下枝=したえだ。赤い矢印の部分。木に生えている枝の中で、最も根元に近い枝(一番下にある枝)。
※樹冠=じゅかん。青い線で囲った部分。枝葉が覆っている範囲。

樹冠の位置が高いと言うことは、枝葉の量が全体的に少ないとも考えられます。(絶対とは言い切れませんが・・・。)
枝葉の量が少ないと言うことは、葉で生産される光合成の生産量も少なくなります。
光合成で生産されたエネルギーは、消費しながら、先端から根元に向かいますが、全体の生産量が少ないと、根元まで十分なエネルギーを送ることが出来ません。
というのも、人工林内の木(以下、林木)は、高い位置にある樹冠全体を支えるため、幹上部でしっかり太らないといけません。
そのため、根元の幹が太るために必要なエネルギーが少なくなり、結果、末口と元口の直径差が少ない完満材になります。
ちなみに、樹木が密集した場所であれば、人工林でも、針葉樹林でも、天然林でも、広葉樹林でも、完満材となる傾向にあります。

一方、孤立した木(以下、単木)の場合、下枝まで光があたるので、結果、下枝が枯れにくくなるため、樹冠の位置は低く、一番下の枝も光合成を行うことができるため、樹幹下部も盛んに肥大成長し、結果、末口と元口の直径差が大きいうらごけ材になります。

スギやヒノキなどの針葉樹を例に、林木の樹冠と単木の樹冠の位置の違いを写真で、ご確認下さい。





写真で比較すると、どっちの木の形状が、風で揺れやすいか、おわかりいただけるかと思います。

単木はうらごけ材で、風が吹くと樹幹上部は激しく揺れますが、樹幹下部はほとんど揺れません。
林木は完満材で、風が吹くと、はじめ樹幹上部が小さく揺れ、やがて樹幹下部で大きく揺れ出し、結果、根元への負担が大きくなります。
というのも、単木は樹冠の位置が低いため、重心も低くなり、林木は樹冠の位置が高いため、重心も高くなります。
音楽で使われるメトロノームと同じ理屈で、重心を高くすると大きく揺れ、重心を低くすると小さく揺れる、そんな感じです。



単木は曲げの力を均等化させる「うらごけ材」で、樹冠(重心)の位置が低いため、風が吹いても大きく揺れにくい。
林木は曲げの力を均等化させにくい「完満材」で、樹冠(重心)の位置が高いため、風が吹くと大きく揺れやすい。
林木は周囲に他の樹木があるため、お互いに風を遮りあう関係にあるので、簡単には倒れません。
しかし、強風が吹き続けると、大きく揺れ出し、写真のように樹冠が絡むこともあります。





また、数十年に一度の大型台風など、林木同士が互いに風を遮りあっている力以上の風が吹くと、一気に倒木することもあります。
さらに、林木は、間伐により立木密度が下がったり、周囲が皆伐されたりすると、ちょっとした強風で簡単に倒れてしまうこともあります。



4 まとめ
樹木としては、「うらごけ材」の方が、下枝も光合成を盛んに行う健康的な樹木と言えますが、林業としては、歩留まりが悪くなりやすいので、あまり好まれません。
しかし、樹木の成長に応じて、一定の密度を保ちつつ、樹冠をコントロールすることで、木を太らせ、完満材という形状の木材を生み出す、というのが林業です。
今回のお話でお伝えしたいことは、木材生産を目的とする林業で育てている樹木は、必然的に「風の影響を受けやすい樹木」に育つ傾向にあるということです。
という風に考えると、強度間伐や皆伐を行うことで、残された林木や周辺の林木に与える風の影響が大きく変化するというリスクに気づくことが出来ます。
ただし、強度間伐や皆伐を否定しているわけでも、やってはいけないと指摘しているわけではなく、その行為が、林木に与える風の影響力を変えてしまうことを認識することが大切だと言うことです。(否定すると施業の選択肢を狭めてしまい、経営面ではマイナスになることもあるので。)
林業は、必然的に風の影響を受けやすい樹木を育てている。
その事と現場の環境を考慮した上で、施業や整備を行うことが必要ではないでしょうか。

木は山主にとって資産です。
そして、その資産は、風の影響を受けやすい資産であるため、林業施業は現場に応じて、適した時期に、その現地に適した施業を行う事が理想であり、杓子定規に35%間伐すれば良いというものではありません。
適した間伐率は、樹木の生長量、方位、地形、光の入射角などから見極める必要があるので、ホントに難しいんですが、現地によって適した間伐率があるという認識をもつことが大切だと思います。
知っていれば、それを目指すことが出来ますし、技術向上に繋げていくことも出来ると思います。

最後に、今回のお話を簡単にまとめます。
・「うらごけ材」は、木材の歩留まりは悪いけど、曲げの力を均等化させるというメリットがある。
・「完満材」は、木材の歩留まりは良いけど、曲げの力を均等化させにくいというデメリットがある。
・単木の形状は「うらごけ材」で、下枝が枯れず、樹冠(重心)の位置も低くなるため、風が吹いても大きく揺れにくい。
・林木の形状は「完満材」で、下枝が枯れており、樹冠(重心)の位置も高くなるため、風が吹くと大きく揺れやすい。
・林業は「完満材」を生産したいので、必然的に「風の影響を受けやすい樹木」に育つ傾向にある。
・林木は、風の影響を受けやすいという欠点を密集(密度)で補っているため、間伐や皆伐などの伐採行為によって、林木に与える風の影響が変化する可能性がある。

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